はじめに
業務委託契約での委託側のメリットとして、雇用契約ではないため社会保険料などの負担が不要になり、コストが軽減できることなどが挙げられますが、一方で、成果に対する管理が必要なことやセキュリティ上のリスクが生じる可能性などのデメリットもあります。
また、受託側においては、得意分野ややりたいことが仕事にできることや自由なスタイルで仕事ができることなどがメリットではありますが、基本的に労働基準法は適用がされないというデメリットもあります。
特に、業務委託でのデメリットの部分がトラブルの原因とならないようにするために必要なのが、「業務委託契約書」です。
今回は、業務委託契約書の書き方と作成するうえで重要になるポイントについて解説します。
委託側・受託側ともに不利益になることなく、気持ちよく業務をすすめていくために、理解を深めていきましょう。
目次:
1. 業務委託契約書とは
業務を外注(委託)する際に締結される契約のことを、「業務委託契約」といいます。
業務委託契約を締結する際、委託する側と受託する側のそれぞれが、業務内容や条件に対する認識の相違をなくし、トラブルを回避するために必要なのが「業務委託契約書」です。
ここでは、業務委託契約書の概要と基本的な役割について解説していきます。
1.1 業務委託契約書の基本
業務委託契約書とは、企業などが外部に業務の委託を必要とする際に、業務の受託者との間で締結すされる契約書です。
業務委託契約書は、委託者が作成し、「委託する業務内容」「報酬(金額・支払方法・期日)」「契約期間」などの諸条件とともに、問題が発生した場合にすべき対応などを記載します。
ただし、実際には日本の法律に「業務委託契約」という規定はなく、法的には「請負契約」または「委任(準委任)契約」のいずれかに該当するのが一般的です。
・請負契約:物を作るなど業務の完成を目的とする契約
・委任(準委任)契約:事務処理など業務の遂行を目的とする契約
1.2 業務委託契約書の重要性
委託者は業務委託契約書を作成し、業務委託の条件を明確にしたうえで、受託者との間で契約を交わします。
とはいえ、業務委託契約は、契約書を交わさず、業務内容や条件がメールや口頭による通知であった場合でも、委託者と受託者双方それぞれが合意すれば契約の成立が可能です。
しかしながら、口頭でのやり取りでは契約条件の認識に齟齬が生じたり、メールでのやり取りでは紛失して条件が確認できなくなったりするなどの可能性があり、後々トラブルになる恐れがあります。そこで重要になるのが、「業務委託契約書」です。
業務委託契約書を作成するには、支払条件や契約期間などのほか、委託者が求める業務やクオリティを正しく受託者に伝えておく必要があり、あらかじめ双方の認識を一致させることができます。
さらに、業務委託契約書を交わすことで、双方がその契約内容に合意したことを証明することができるため、万が一トラブルが発生した場合でも速やかな解決が可能です。
2. 業務委託契約書の書き方とは
業務委託契約が正しく効力を発揮するためには、必要事項が漏れなく記載されていることが重要です。
では、実際にどのようなことを記載する必要があるのでしょうか?
ここでは、基本的な業務委託契約の書き方とともに、PDFelementを使用して業務委託契約書を作成する手順についても触れていきます。
また、業務委託契約の書き方については、厚生労働省より公開されている「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」なども参考にしてください。
「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/zaitaku/dl/100728-1_05.pdf
2.1 基本情報
業務委託契約書は、基本情報の記載からはじまります。
まずは「前文」として、誰(委託者)と誰(受託者)が業務委託契約を結ぶのかを示し、次に、どのような内容の業務委託契約なのかなどを記載します。
【記載事項】
・「委託者」と「受託者」双方の名称
・本文の内容にて契約を締結する旨
・業務委託の内容
例)
(前文)
株式会社A(以下「甲」という。)及び株式会社B(以下「乙」という。)は、甲の業務の委託に関して、以下のとおり業務委託契約(以下、「本契約」という。)を締結する。
第1条(業務委託の内容)
甲は、本契約の定めるところにより、〇〇〇に関する業務(以下、「本件業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
【ダウンロードしたWordテンプレートをPDFelementで編集する】
ダウンロードしたWordの「業務委託契約書」テンプレートも、PDFelementで編集することができます。
1. PDFelementを開きます。
2.「+(PDF作成)」をクリックし、「ファイルから作成」をクリックして、編集する「業務委託契約書」テンプレートを選択します。
3.「業務委託契約書」テンプレートが開きます。
「編集」タブを選択すると、文書が編集できるようになります。
→ 関連記事:PDF契約書の作成方法>>
2.2 契約の範囲
契約の範囲とは、「求める結果に対する責任の範囲」です。
ちなみに、本来日本の法律には「業務委託契約」という規定はなく、法的には「請負契約」または「委任(準委任)契約」のいずれかに該当します。
・「請負型」の業務委託契約は、物を作るなど仕事の完成を目的とする契約
・「(準)委任型」の業務委託契約は、事務の処理を目的とする契約
契約の範囲では、どの状態が「完成」にあたるか、「完成」するまでの間どのような対応を取るべきか、「完成」したものの権利の帰属先などを明確化することが重要です。
【記載事項】
・受託者の責務
例)
第2条(受託者の責務)
1 .乙は、本件委託業務を、善良なる管理者の注意をもって行うものとする。
2 .乙は、甲からの求めがある場合には、本件委託業務の進行状況、その他甲が報告を求める事項に関して、遅滞なく甲に報告しなければならない。
3 .乙が本件委託業務に関して作成又は受領した報告書などの所有権は、全て甲に帰属する。
2.3 報酬と支払い条件
業務委託契約は、報酬の支払い方法の違いによって、主に次の3種類に区分されます。
・定額報酬制:継続的に業務を委託し、毎月一定額の報酬を支払う
・成果報酬制:委託した業務の成果によって報酬を支払う
・単発業務委託:単発の業務(原則1回)を委託し、最初に定めた報酬を支払う
報酬と支払い条件では、「対価」を明示するとともに、「支払期限」や「支払方法」の記載が必要です。
また、実費負担が発生する場合の対応についても記載します。
【記載事項】
・対価
・締め日、支払期限
・支払方法(振込等)
・実費負担時の対応
例)
第3条(業務委託料)
1 .本件委託業務の対価は、月額金〇〇〇円(消費税込)とする。
2 .甲は乙に対し、前項に定める対価を毎月○日までに、乙が別途指定する銀行口座に振込む方法により支払う(振込手数料甲負担)。
第4条(実費負担)
本件委託業務の遂行に伴う交通費、宿泊費その他の諸経費等の実費は、甲の負担とする。
当該実費は、原則として乙が立替払いをし、事後に請求書を甲に提出することとし、乙への支払方法は前条に準ずるものとする。
2.4 機密保持契約
機密保持契約は、業務委託に関して発生する機密情報を双方が第三者に漏洩したり、開示したりすることのないよう「機密保持」についての条件を記載します。
【記載事項】
・機密保持の義務
例)
第9条(秘密保持)
1 .甲及び乙は、本契約に関連して知り得た他の当事者の技術上・経営上の一切の秘密(以下、「秘密情報」という。)を他の当事者の書面による承諾がない限り、第三者に漏洩または開示してはならない。
2 .前項の義務は、本契約期間中のみならず、本契約終了後○年間存続するものとする。
【業務委託契約書をPDFelementで暗号化する】
作成した「業務委託契約書」をPDFelementで暗号化し、パスワードを設定して保存することができます。
1. 作成した業務委託契約書をPDFelementで開きます。
2.「保護」をクリックし、表示された「暗号化」ダイアログボックスで、必要なパスワードを設定し、「保存」をクリックします。
2.5 契約の終了
契約の終了では、本契約の有効期間と契約の延長についての要件とともに、期間中に契約を終了する場合の条件・手続き・引継ぎ方法等について記載します。
【記載事項】
・本契約の有効期間と契約の延長手続き
・中途解約の条件・手続き・引継ぎ方法
例)
第5条(有効期間)
1 .本契約の有効期間は、平成○年○月○日から平成×年×月×日までとする。
2 .本契約の期間満了の○か月前までに、いずれの本契約当事者からも書面による何らの意思表示もない場合、本契約は同じ条件でさらに1年間延長されるものとし、以降も同様とする。
第6条(中途解約)
本契約期間中においても、甲又は乙は、○か月以上の予告期間をもって書面で通知することにより、本契約を解約することができる。
また、乙は、かかる事前の予告通知をしない場合であっても、○か月分の業務委託料を支払うことにより、本契約期間中であっても本契約を即時に解約することができる。
3.業務委託契約書の重要ポイント
業務委託契約書は、委託側・受託側双方にとって重要な書類です。
それぞれが契約書の重みを十分に理解していなければ、安心して業務を進めることはできません。
ここでは、安心して業務を進めるために、業務委託契約書の作成で重要になる4つのポイントについて解説します。
3.1 法的効力
日本の法律には、「業務委託契約」という規定がありません。
万が一、トラブルが発生した場合には、交わされた「業務委託契約」が民法で定められた「請負契約」または「委任契約」のいずれにあたるかを判断し、その規定に従って解決します。
そのため、業務委託契約書では、この契約が「請負契約」または「委任契約」のどちらに近いものなのかが明確になるようにするのが一般的で、記載される内容はとても重要です。
なお、業務委託契約での場合、委託者と受託者の立場は対等であり、受託者は労働者ではありません。そのため、「労働基準法」は適用されないということも覚えておきましょう。
3.2 明確な契約条件
なお、業務委託契約の場合、委託者と受託者の立場は対等です。
ビジネスではありふれている業務委託契約ですが、民法には業務委託契約という類型の契約についての定めはありません。そのため、契約書で定める条項が重要となります。
業務委託契約では、業務を完了したときに報酬を支払うとされることがありますが、何をすれば業務を完了したと言えるのかが問題となることが少なくありません。この時に、「契約の目的」から当該業委託契約で行わなければならない業務の内容が解釈されることになります。ちなみに、業務の内容は、報酬の支払いだけでなく、損害賠償請求をするための「債務不履行や契約不適合の有無を判断するとき」にも問題となります。
3.3 法的アドバイスの取得
作成された業務委託契約書が法的に有効か、一方的にどちらかの利益・不利益になってはいないかなど、契約前に弁護士や社内の法務部門などによって契約書の内容を確認するために必要なのが「リーガルチェック」です。
リーガルチェックを行わなかった場合、契約書の不備などにより、不利益な契約が結ばれたり、合意内容に認識の相違が生じたり、合意した契約そのものが無効になったりする可能性があります。
リーガルチェックでは、契約書の内容を法的な観点からチェックするため、専門的な知識が必要になるため、契約の際には、専門家による法的アドバイスが受けられるようにしておきましょう。
3.4 変更と修正
契約の締結後に契約な内容を修正したり、追加したりする場合は、契約書そのものを作り直したり、修正したりはせず、変更内容を記載した「覚書(おぼえがき)」を作成します。
覚書とは、締結された契約書に生じた内容の変更や追加を双方が合意したことを証明するもので、「変更契約書」ともいわれます。
なお、覚書で交わされた内容は、契約を締結するのと同様に、法的拘束力を持ちます。
4.無料で業務委託契約書の雛形・テンプレートをダウンロードできるサイト
Webサイト上には、業務委託契約書の雛形やテンプレートが無料で公開されています。
これらを活用すると、必要事項の抜けも少なく、1から作成するよりも効率的です。
ここでは、業務委託契約書の雛形・テンプレートを無料でダウンロードできるWebサイトをいくつかご紹介していきましょう。
4.1 マネーフォワード クラウド契約
マネーフォワード クラウド契約(https://biz.moneyforward.com/contract/templates/)では、主に法務関連のテンプレートを提供されています。
業務委託契約書以外にも、承諾書や誓約書、通知書等のテンプレートを無料でダウンロードすることが可能です。
▼マネーフォワード クラウド契約(https://biz.moneyforward.com/contract/templates/)
4.2 bizocean書式テンプレ
bizocean書式テンプレ(https://www.bizocean.jp/doc/)では、ビジネステンプレートだけでなく、はがきや画像など、32,000点以上のテンプレートをダウンロードすることができます。
▼bizocean書式テンプレ(https://www.bizocean.jp/doc/)
4.3 テンプレートBANK
テンプレートBANK (https://www.templatebank.com/)では、ビジネステンプレート、デザインテンプレートなど、さまざまなテンプレートを無料でダウンロードすることができます。
▼テンプレートBANK (https://www.templatebank.com/)
5.業務委託契約書に関するよくある質問
ここでは、業務委託契約書に関するよくある質問についてお答えしていきましょう。
5.1 業務委託契約書はどちらが作成するものですか?
A. 委託者・受託者いずれが作成しても構いません。
ただし、業務を委託する「委託者側」が作成するのが一般的です。
5.2 業務委託で契約書を作成することは義務ですか?
A. 業務委託において、契約書の作成は義務ではありません。
ただし、契約書を作成することで、さまざまなトラブルを回避することができます。
5.3 業務委託契約書に印紙を貼る必要はありますか?
A. 業務委託契約書に収入印紙は不要です。
ただし、業務委託契約書が、継続的取引の際に作成する契約書(7号文書)にあたる場合には、一律で4,000円の収入印紙が必要です。
5.4 業務委託契約書に捺印は必要ですか?
A. 業務委託契約書は、合意にあたり双方が捺印し、それぞれが一部ずつを保管しておくことが一般的です。
ただし、特別に指定がある場合を除き、捺印がなくても契約の効力に影響はありません。
まとめ
業務委託契約の場合、委託者は希望するレベルで業務が遂行されるために、受託者は業務遂行中・完了後の権利が守られるために、お互いが十分に納得した内容で契約することがとても大切です。
業務委託契約書には、契約に至るまでに確認した事項を正しく盛り込む必要があるため、十分な推敲が必要になります。
そのため、既存の業務委託契約書やテンプレートなどを上手く活用しながら、安全で、効率的に業務委託契約書を作成しましょう。
また、業務委託契約書のような重要な文書は、PDFで作成しておくと安心です。
PDFがあれば、端末や環境を選ばずに開いて確認することができ、不正な閲覧や改ざんも防ぐことができます。
なお、PDFelementでは、業務委託契約書を1から作成するという場合はもちろん、ダウンロードしたテンプレートを編集したり、完成した契約書を後から修正したりすることも可能です。
是非、これを機にPDFelementの導入を検討してみてください。
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